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千葉地方裁判所 昭和37年(ワ)235号 判決 1963年5月17日

判   決

千葉市通町九三番地

原告

千葉商工信用組合

右代表者清算人

石川守忠

千葉市春日町一四番地

被告

渡辺良雄

右訴訟代理人弁護士

柴田睦夫

右当事者間の昭和三七年(ワ)第二三五号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代表者は、被告に対し、金三六一、五九〇円及び之に対する昭和三二年七月一四日からその支払済に至るまでの金一〇〇円について一日金七銭の割合による金員を支払わなければならない、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は、中小企業等協同組合法に基いて設立された、庶民金融を目的とする信用組合であつて、昭和三六年九月一日解散し、現在、清算中の組合であり、被告は、昭和二九年六月二日から昭和三一年三月一一日まで、原告組合の組合長たる代表理事として、在職し、その間、原告組合の業務一切について、その最高責任者であつたものである。

二、而して、被告は、組合長として在職中の昭和三〇年一〇月二八日、原告組合を代表して、当時原告組合の理事であつた訴外宮内重孝に対し、金五四二、〇〇〇円を、返済期同年一一月二五日、利息日歩金五銭、遅延利息日歩金七銭の約定で貸付けた。

三、然るところ、右訴外人は、弁済期が到来してもその支払を為さず、その為め、訴外宍倉三治が、右訴外人に代つて、昭和三一年一〇月三日右貸付金の元利金に対する内入金として、金三〇〇、〇〇〇円の支払を為したので、内金一一八、五九〇円は、同日までの遅延利息に充当し、残額金一八一、四一〇円は、元金に充当し、残元金は金三六一、五九〇円となり、その後、更に、右訴外人から、数回に亘つて、合計金七一、四四〇円の入金があり、これは、昭和三二年七月一三日までの遅延利息に充当したので、残債権は、元金三六一、五九〇円及び之に対する昭和三二年七月一四日以降の日歩金七銭の割合による遅延利息となったのであるが、債務者は、その後、無財産、無収入となり、その結果、右債権は、全く回収不能の債権となり、原告組合は、之によつて、右債権と同額の損害を蒙るに至つた。

四、而して、前記貸付は、左記各点に於て、法規その他に対する違反があるから、それは、違法の貸付である。

(イ)  債務者である前記訴外人は、当時、原告組合の理事であつたものであるから、その貸付については、理事会の決議を経なければならないものであるに拘らず、その決議を経ないでその貸付を為したのであるから、右貸付は、前記組合法第三八条及び原告組合内務規定第二五条の規定に違反して居る。

(ロ)  貸付を為すについては、連帯保証人二名を立てさせることが必要であるに拘らず、それを立てさせないでその貸付を為したのであるから、右貸付は、原告組合の貸付取扱の規定二の(2)の規定に違反して居る。

(ハ)  貸付を為すについては、常務理事、専務理事及び組合長の全員の承認を受けなければ、之を為すことが出来ないに拘らず、それを受けないでその貸付を為したのであるから、右貸付は、右貸付取扱の規定の一の(1)及び(2)の規定に違反して居る。

(ニ)  原告組合に対しては、昭和三〇年五月三一日、千葉県知事から貸出停止の指令が為されて居るのであるから、その後に於ては、貸付を為すことが出来ないに拘らず、その貸付を為したのであるから、右貸付は、右千葉県知事の貸出停止の指令に違反して居る。

而して、組合長は、法令及び定款の規定その他に従つて、善良なる管理者の注意を以て、忠実に、組合の業務を執行する義務を負うて居るものであるから、右の様な違法な貸付を為すことは、右義務に違反することになるものであるところ、斯る義務違反は、その任務の懈怠となるものであるから、右貸付を為すについては、組合長たる被告にその任務の懈怠があるものである。のみならず、右貸付を為した当時、債務者である前記訴外人は、不動産を所有せず、店舗も借店舗で、而も営業不振であつて、支払能力の不十分であることが判明して居たのであるから、同訴外人に対しては、貸付を為すべきでなかつたに拘らず、右貸付を為したのであるから、この点に於ても組合長たる被告に任務の懈怠があるものである。

五、以上の次第であるから、原告組合の蒙つた前記損害は、結局、組合長たる被告の任務懈怠に基因するものである。従つて、被告は、前記組合法第三八条の二の規定によつて、原告組合に対し、右損害の賠償を為すべき義務のあるものである。

六、仮に、前記貸付は組合長たる被告が之を為したものでないとしても、被告は、原告組合の業務執行についての最高責任者たる組合長として、原告組合の業務一切について、忠実に、その執行を為すべき義務を負うて居たのであるから、常時出勤して、部下職員を指揮監督し、且、事務の管理を為すべきであつたに拘らず、之を怠り、出勤は全然為さず、従つて、部下職員の指揮監督も事務の管理も為さず、その結果、部下職員によつて、前記違法の貸付が為されるに至つたものであるから、組合長たる被告に任務の懈怠があり、而して、之によつて、原告組合は、前記損害を蒙るに至つたものであるから、原告組合の蒙つた右損害は、結局、被告の任務懈怠に基因するものであり、従つて、被告は、前記法条の規定によつて、原告組合に対し、右損害の賠償を為すべき義務のあるものである。

七、仍て、被告に対し、金三六一、五九〇円及び之に対する昭和三二年七月一四日からその支払済に至るまでの日歩金七銭の割合による遅延利息金の支払を命ずる判決を求める。

と述べ、

被告の主張に対し、

八、被告が組合長に選任された際、その選任を為した理事会によつて、被告主張の事項について、その主張の承認が為されたことは、之を否認する。右の様な承認は為されて居ない。

九、仮に右事項について、理事会の承認があつたとしても、その承認の対象とされた事項は、組合長の職権を全面的に他の理事に委任することであつて、この様な委任は、法の規定に違反し、無効のそれであるから、それについて、理事会の承認があつても、原告組合に対する関係に於ては、何等の効力も生じないものである。従つて、被告主張の事項について、理事会の承認があっても、被告に任務の懈怠がないと云うことにはならないものである。

一〇、仮に、右の様な委任が有効であるとするならば、その委任を為した被告は、その委任を為すことについて、同意したことになるものであるから、その委任を受けた者に任務の懈怠がある以上、之と共同して、損害の賠償を為すべき義があるところ、その委任を受けた者に任務の懈怠があることは、前記の通りであるから、被告は、前記法条の規定によつて、原告の蒙つた前記損害の賠償を為すべき義務のあるものである。

一一、仮に、委任による責任が被告にないものであるとしても、被告が、組合長として、業務の執行を為す為めの補助者である部下職員に任務の懈怠がある以上、被告に任務の懈怠があることになるものであるから、その様な場合には、前記法条の規定によつて、当然、被告に於て、その責任を負うべき筋合のものであるところ、前記貸付は、部下職員が、その任務を怠つて、之を為したものであるから、被告に於て、その責任を負わなければならないものである。従つて、被告は、原告の蒙つた前記損害の賠償を為すべき義務のあるものである。

一二、尚、被告主張の示談が成立したことは、之を否認する。と答え、

証拠<省略>

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、原告が、その主張の組合であつて、被告が、原告主張の期間、原告組合の組合長の職にあつたこと、及び原告組合が、その主張の日に、当時その理事であつた訴外宮内重孝に対し、その主張の約定で、その主張の金員を貸付け、訴外宍倉三治から原告主張の内入支払が為されたこと、並に右貸付が、原告主張の法規の規定等に違反するものであることは、孰れも、之を認める。

二、債務者である右訴外人が、無財産、無収入となり、その為め、右貸付金残額債権及び之に対する遅延利息金債権が回収不能となり、之によつて、原告組合がそれと同類の損害を蒙るに至つたことは、不知。

三、被告か、組合長として、右貸付を為したこと、及び被告に、組合長として、原告主張の様な各種の任務懈怠があることは、共に、之を否認する。

四、右貸付は、当時、原告の副組合長であつた代表理事訴外宍倉三治が、原告組合を代表して、之を為したものであつて、被告は、全然、之に関与して居ないものであるから、仮に、原告組合が、右貸付によつて、その主張の損害を蒙つたとしても、被告には、その損害の賠償を為すべき義務はない。

五、又、被告が、右貸付に関与しなかつたのは、左記事情によるものであつて、副組合長であつた右訴外人が右貸付を為したこと、及び被告が之に関与しなかつたことについて、被告には、任務の懈怠はないのであるから、仮に、原告組合が、右貸付によつて、その主張の損害を蒙つたとしても、被告には、その損害の賠償を為すべき義務はない。

被告は、組合長に就任するに際し、自己の業務が多忙であつて、原告組合の日常の業務は、之を処理することが出来なかつたので、被告を組合長に選任した理事会に於て、この旨を申出で、被告を除く他の出席理事全員の承諾を得て、組合の日常の業務は他の理事において之を処理するという了解の下に、組合長に就任し、この了解に基いて、被告は、原告組合の日常業務の処理には関与せず、専ら、対外的事務の処理に当つて居たものであるから、貸付等の日常の業務に関与しなかつたことについても、又、副組合長が右貸付を為したことについても、被告には、任務懈怠は全くなかつたものである。

六、仮に、被告に、任務の懈怠があつたとしても、被告は、右貸付には全然関与して居ないものであるから、被告の任務の懈怠と損害の発生との間には因果関係がないから、仮に、原告組合が、右貸付によつて、その主張の損害を蒙つたとしても、被告には、その損害の賠償を為すべき義務はない。

七、仮に、被告に、任務の懈怠があつて、之と損害の発生との間に因果関係があり、従つて、被告に、原告組合の蒙つた損害の賠償を為すべき義務があるとしても、右貸付を含む不良貸付の回収不能による損害については、昭和三一年二月五日の理事会に於て、各理事が分担して、合計金三、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形を振出し、之を以て、各理事の責任を確定する案を総会に提出する旨の決議を為し、之に基いて、その案を同月九日に開かれた総代会及び組合員総会に提出し、夫々の会は、右案を承認する旨の決議を為したので、各理事の責任の範囲は、之によつて、確定したものであるところ、組合員総会によつて、斯る確定が為されたことは、各理事と原告組合との間に於て、示談が成立したことになるものであるから、之によつて、被告を含む各理事の原告組合に対する損害賠償債務は消滅して、示談に基く債務に変じたものであり、而して、被告は、之に基いて、自己の分担額を額面とする約束手形を原告組合宛に振出したのであるから、その後、原告組合との間に於て、右手形の支払について、昭和三六年中に、重ねて、示談が成立し、右手形金債務は消滅に帰したので、結局、被告の原告組合に対する損害賠償債務も、又、手形債務も共に消滅した次第であるから、被告は、原告組合の本訴請求に応ずべき義務は全然ない。

と述べ、

証拠(省略)

理由

一、原告が、その主張の組合であること、被告が、原告主張の期間、原告組合の組合長たる代表理事であつたこと、及び原告組合が、原告主張の日に、当時、その理事であつた訴外宮内重孝に対し、その主張の約束で、その主張の金員を貸付けたことは、孰れも、当事者間に争がなく、又、右貸付が、原告主張の法律の規定及び原告組合の内規その他に違反する貸付であつたことも、当事者間に争がないのであるから、右貸付は、違法な貸付であつたと云わなければならないものである。

二、而して、右訴外人が、右債務の支払を為さなかつた為め、訴外宍倉三治が右訴外人に代つて、原告主張の内入支払を為し、その結果、原告組合の右訴外人に対する債権が、元金三六一、五九〇円及び之に対する昭和三二年七月一四日以降の金一〇〇円について一日金七銭の割合による遅延利息金債権となつたことは、当事者間に争がなく、而して、債務者である右訴外人が無資産であつて、右債権が回収不能であることは、(証拠―省略)によつて、之を認定することが出来るので、原告組合は、右貸付によつて、右債権の額と同額の損害を蒙つて居ると云うことの出来るものである。

三、而して、原告組合が貸付を為すについては、代表理事が、組合を代表して、之を為すものであるところ、代表理事は、善良なる管理者の注意を以て、忠実に、その職務を行う義務があるから、法規その他に違反して貸付を為すことは、その任務を怠つたことになるものであるところ、前者貸付は、前者認定の通り違法の貸付であるから、右貸付を為すについては、その貸付を為した代表理事に、任務の懈怠があつたものであると云わなければならないものである。

四、而して、原告組合は、右貸付によつて、右損害を蒙り、その貸付は、それを為した代表理事の任務懈怠によつて為されたものであるから、右損害は、右貸付を為した代表理事の任務懈怠に基因するものであると云うべく、従つて、右貸付を為した代表理事は、原告主張の組合法第三八条の二の規定によつて、原告に対し、右損害の賠償を為すべき義務を負わなければならないものである。

五、然るところ、原告は、前者貸付は、被告が、組合長たる代表理事として、之を為したものであるから、被告に、右貸付を為した代表理事としての任務の懈怠があり、従つて、被告は、前記法条の規定によつて、原告に対し、右損害の賠償を為すべき義務がある旨を主張して居るのであるが、被告が、右貸付を為し若くは之に関与したことは、之を認めるに足りる証拠が全然なく、却つて、(証拠―省略)を綜合すると、右貸付は、当時、原告組合の副組合長であつた代表理事訴外宍倉三治が、之を為したものであつて、被告は、右貸付には全然関与して居なかつたものであることが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はないのであるから、右貸付は、副組合長であつた右訴外人が之を為したものであると認める外はなく、従つて、右任務の懈怠は同訴外人にあるのが、同訴外人の為した右貸付が、組合長である被告の委任に基いて為されたものであるならば、右貸付を為した副組員長の任務懈怠の責任は、組合長である被告が之を負わなければならない筋合になるところ、右貸付が組合長である被告の委任に基いて為されたものであることを認めるに足りる証拠は全然なく、却つて、右認定の事実と、成立に争のない甲第二二号証同第三号証によつて認められるところの、原告組合の定款に、組合長は組合の業務を統轄し、組合長に事故があるときは副組合長以下の代表理事がその職務を行う旨の規定が、又、原告組合の内務規定に、組合長は組合の最高責任者として組合の事務を処理する旨の規定があることを綜合すると、右貸付は、副組合長である右訴外人が、組合長の職務を代行して之を為したものであることが認められるのであつて、斯る場合に於ては、その任務懈怠の責任は、その職務の代行を為した者に於て、之を負うべきことは、当然の事理であるから、右貸付についての任務懈怠の責任は、右貸付を為した副組合長である右訴外人に於て、之を負わなければならないものである。

六、併しながら、組合長は、前記認定の定款の規定並に内務規定の条項によつて、原告組合の業務の執行についての最高責任者たる地位にあるものであるから、その地位に伴うところの職務を忠実に行う義務があるものと云うべく、従つて、組合長たる被告が、前記貸付に関与しなかつたことについて、右忠実義務の不履行があるならば、組合長たる被告にも亦任務の懈怠があると云い得るものであるところ、(証拠―省略)と弁論の全趣旨とを綜合すると、被告は、自己の業務が多忙であつて、組合の日常の業務の処理は到底、之を為すことが出来なかつたので、被告を組合長に選任した際の理事会(この理事会は、理事一四名の中、代表理事全員を含む一三名が出席して開かれたもの)に於て、この事情を明かにした上、組合の日常の業務は、他の代表理事に於て、之を処理せられ度き旨を申出たところ、被告を除く出席理事全員が之を承認したので、被告も組合長に就任することを承諾して、組合長に就任したこと、従つて、被告は、組合長就任後は、日常の業務には全く関与しないで、専ら、対外事務の処理と内部の各種の会議の主宰等の事務を為し、原告組合も被告を常勤理事として取扱わず、組合長としての給与の支給も為さなかつたこと、そして、その結果として、後に、代表理事たる副組合長が置かれ、日常の業務の処理については、主として、副組合長が、組合長の職務を代行して居たことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はなく、尤も、右理事会の議事録である成立に争のない甲第六号証によると、右議事録に右承認が為されたことの記載のないことが認められるけれども、前記認定の定款並に内務規定によると、右の様な事項は、理事会の決議によることを要しないものであることが認められるので、右議事録に右承認の為された旨の記載がないことは、当然であるから、右議事録に、右承認の為された旨の記載がないことは、右承認が為されたことの証左とはなり得ないものであり、従つて、右議事録に右記載のないことは、右認定を為す妨げとはならないものであり、而して、右認定の事実によると、原告組合の日常の業務は、副組合長以下の代表理事が、組合長の職務を代行して、その処理を為して居たものであることが認められ、而して、他の代表理事による組合長の職務代行は、前記認定の定款の規定によつて、許されて居るところであつて、而もその規定には、何等の制限もないのであるから、日常の業務についての他の代表理事による組合長の職務代行は、当然、許されて居るところであると云うべく、而して、組合長は、自己の生活の根源である自己の業務を放てきして、組合の業務の処理を為すべき責任はなく、右定款の規定も、この様な点をも考慮に入れた規定であると解されるから、組合長が自己の業務が多忙であることによつて、組合の日常の業務をとることが出来ないと云う場合は、組合長がその業務をとることが出来ないことについて、正当な事由があるものと云うべく、従つて、被告には、組合長の職務代行が為されることについての正当な事故があつたことになるのであるから、被告には、組合長の職務代行が為されたことについて、忠実義務の違反はなく、而も、右事故は、恒常的な事故であつて、日常の業務の処理に支障を来す虞れがあるのであるから、被告が、組合長に就任するに際し、理事会に出席した他の理事全員に対し、その事情を申出で、他の代表理事による日常の業務の恒常的な組合長の職務代行について、右理事全員の承認を得たことは、正当な処置であつたと云うべく、従つて、被告が、組合長として、前記貸付に関与しなかつたことについては、被告に、忠実義務の違反はなかつたと云わざるを得ないものである。

七、然る以上、被告には、任務の懈怠による損害賠償の責任はないのであるから、被告に、右責任があることを理由として為された原告の本訴請求が失当であることは、多言を要しないところである。

八、原告は、右組合長の職務代行を、組合長の職務権限の委任であると解し、之を前提として、被告の主張に対する答弁第九項の通り主張して居るのであるが、委任と職務代行とは異なるものであつて、委任の場合は、責任は、あくまでも委任者に帰属するのであるが、職務代行の場合は、その代行者が、他人の職務権限を、自己の責任に於て、行うものであるから、その責任は、代行者自身に帰属するものであるところ、本件の場合は、前記認定の通り、職務代行であつて、委任の為された事実は之を認め得ないのであるから、委任が為されたことを前提とする原告の右主張は、理由がないことに帰着する。

九、又、原告は、右職務代行を委任と解し、之を前提として、被告の主張に対する答弁第一〇項の通り主張して居るのであるが、それが委任でないことは、右に説示の通りであるから、それが委任であることを前提とする右主張も亦理由がないことに帰着する。

一〇、更に、原告は、被告の主張に対する答弁第一一項に於て、部下職員の任務懈怠は、業務執行の補助者のそれであるから、その責任は、当然、最高責任者たる組合長に於て、之を負うべきものであると云う趣旨の主張を為して居るのであるが、本件の場合は、前記認定の通り、職務代行が為された場合であつて、職務代行が為された場合に於ては、責任は、職務代行者に帰属するものであることは、前記説示の通りであるから、部下職員の任務懈怠の責任が、組合長に帰属するものであるとしても、その責任は、組合長の職務代行を為したものに帰属し、特段の事情のない限り、職務代行を為された組合長には及ばないと云わなければならないものであるところ、特段の事情のあることを認め得るに足りを何等の証拠もないのであるから、原告の右主張も亦理由がないことに帰着すを。

一一、仍て、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

千葉地方裁判所

裁判官 田 中 正 一

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